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2008年7月13日日曜日

「猫が鳴くから」

「猫が鳴くから」

太郎
ちえ
太郎の後輩
課長





二人は同じベッドで寝ている。

ちえ 「ねぇ、あなた昨日ね、私ホームレスにお金せびられちゃった」
太郎 「で、どうしたの」
ちえ 「あげたよ、200円」
太郎 「げー、偽善者だ、ちえがそんなことしても根本の解決にはならないよ」

太郎は軽く笑いながら言う

ちえ 「あら、私は困っていたからあげただけよ。幸い私は200円くらいのお金は出せる経済状況だし」

ちえは少し口調を強めて言う。

太郎 「その論法で行くと、困っていて、君を頼りにする人全員になんらかの施しをしなくちゃいけなくなるよ。それは出来ないだろ」
ちえ 「出来ることは出来るし、出来ないことは出来ない、それじゃ駄目?」
太郎 「そういう感覚的な判断をその都度行うのは大変だよ。誰でも出来ることじゃな い。だから自分の中のルールを決めるんだ。僕はそういうことが起こってもお金をあげない。これだけ世界でたくさんの問題が起こっているんだ。全部に関心を持って、全部になんらかの行動をすれば、経済的にも、精神的にも破綻しちゃうよ」

太郎はちえとは反対のほうに寝返りをうつ。

太郎 「僕って冷たい人かな」
ちえ 「そうじゃないってことは私がよく知ってる。もう寝ましょ。おやすみ」

ちえは電灯をけし、部屋は真っ暗になる。

シーン2

会社で、上司にくどくど起こられる太郎。

シーン3

太郎の後輩 「すいません、あれ、俺のミスなのに。先輩困らせちゃって」
太郎 「しょうがない」

太郎は後輩にコーヒーを買ってあげる。

太郎 「こんなことで会社辞めんなよ。他行っても大変なだけだから」
太郎の後輩 「あのー、昨日、母が熱出して倒れちゃって、母子家庭だから、母の面倒は僕が見なくちゃいけなくて、それで・・・言いにくいんですけど、代わりに報告書やってもらっていいですか・・・」

太郎は怖い目で後輩をにらむ。

太郎 「おいおい、ふざけるな!」

太郎の後輩 「お願いします」

ふかぶかと頭を下げる後輩

太郎 「冷静に言おうか。俺は俺の責任を超えて、お前をかばった。それは俺のお前に対するやさしさだ。お前はそのやさしさにどこまでもつけこもうとしているんだ。間違ったことを言ってるか?」

それでもふかぶかと頭を下げる後輩
少し考え込むが、後輩を無視して去ってしまう太郎。

続く・・・

2008年5月20日火曜日

良くある話

良くある話


登場人物

ノリオ デモ隊のリーダー
ナタリー 異国の娼婦 年齢不詳
シノブ ノリオのことを想う女

男1 デモ隊の部下
少年 デモ隊に参加している10代の労働者


遠い未来のとある国の出来事

シーン1

雑居ビルの一室がノリオの部屋、コンクリートがむき出しの壁には卑猥なポスター等が貼ってある。

小汚いパイプベッドでノリオは寝ている、隣には娼婦のナタリー。
ナタリーはまだあどけなさの残る雰囲気。

雑居ビルに面した大通りではもの凄い喧噪。
大勢の最下層の労働者達がデモを起こし、警官隊と衝突している。
労働者達が持っているプラカードには、「移民の受け入れ反対、自国の労働者に仕事を!異国の奴らは出て行け!」などと派手に書かれてある。
労働者達は火炎瓶を投げつけたりし、警官隊はそれに応じて、発砲などもしている。

ドンドン、玄関のドアを叩く音、ノリオはそれに気づいて起きる。
そして急いでナタリーを起こす。
起こされたナタリーは事態を察し、下着姿のままクローゼットの中に隠れる。

男1 「は、始まりました」

男1は興奮してノリオに言う。
ノリオはその一言を聞きすぐに服を着替え、その男と一緒に部屋を出る。
しばらくしてナタリーはクローゼットの中から出てくる。
少し冷えたのか何回もクシャミをする。
ナタリーは昨夜の素晴らしい夜のことを思い出し、一人ベッドの上でタオルケットのような薄地の布だけかぶりニヤニヤしている。

回想始まり

ノリオはセックスが終わった後も、目を見つめ、やさしくナンシーの頭を何どもなでてあげる。子犬のようにノリオに甘えるナタリー。

回想終わり

ナタリーはベッドから降り、冷蔵庫の中から水をとりだし美味しそうに飲む。ほっとしたのか少しぼーっとした顔になる。
するとまたドンドンと音がして、ナタリーは急いでクローゼットの中に入る。

シノブ 「ちょっとーいないの!私もデモに参加するわ、あなたのためになり
 たいの、命を捨てる覚悟も出来てるわ!」

ナタリーはクローゼットの中で鍵を閉め忘れたことに気づく。
シノブは部屋に上がり込み、ベッドの上に座り込む。

シノブ 「私を置いてかないで・・・」

そしてしばらくすると泣き出す。
それを見てナタリーはクローゼットの中から思わず出てきてしまう。
ナタリーは何か言いたいが言葉がわからない。
驚くシノブ、しかしすぐにコトを飲み込む。

シノブ 「まさか異国の女とはね・・・」

しばらく戸惑った後、ナタリーはっと気づきハンカチを差し出してシノブに近づく。

シノブ 「近寄るな、汚らわしい!」

シノブは泣き叫ぶ。
シノブは何故泣いているのかわからず戸惑うナンシー。
ナタリーは変な顔を作り、なんとか女を泣きやまそうとする。
するとシノブは急に泣き止み、携帯電話をとりだし、どこかに電話をする。
シノブが泣きやみ一人喜び、満面の笑みを浮かべるナタリー。

シーン2

雑居ビルに面した大通り

警官隊と激しい衝突を繰り返す労働者達。
最前線で戦うノリオ。
横目で労働者のとある一団が雑居ビルに入っていくのが見える。
気にはなったが、警官隊と取っ組み合いをしているのでそれどころではない。

〜時間経過〜

シーン3

雑居ビルの影になっている場所。

夕方に騒動は収集した。
警官隊、デモ隊双方に多数の死者を出し、周辺には死体が転がっている。
政府の命により黙々とその死体を拾集する異国の下層労働者達。
その様子をビルの影からタバコを吸いながら見ているノリオ、怪我こそ多少しているものの命には別状はない。
ノリオの隣でまだ十代と思しき少年も同じ光景をみている。

少年 「こんな世界間違ってる」

しばらくその光景を見続けたあと、ノリオは笑いながらその少年にタバコをくわえさせる。むせる少年。

少年 「ごほっ、ごほっ。あのー・・・」

何も答えずノリオは雑居ビルへと戻っていく。

シーン4

雑居ビルの自分の部屋

自分の部屋に戻ったノリオは明かりをつけ、ベッドに横たわるナタリーの死体を発見する、死体は心臓をピストルで射貫かれていて、強姦されたような形跡もある。
しかしどういうわけかナタリーの死に顔は笑顔だった。
ノリオは目をつぶらせてから、隣に横たわりただ手を握り、頭をなでてあげる。
ノリオの表情からはなにも読み取ることができない。
そこにシノブと労働者達が入ってくる。

シノブ 「あら、一緒に寝て仲良しだこと」

ピストルをノリオに向けるシノブ、目からは涙がこぼれている。
労働者たちはただうつむくばかり。
そんな状況に何も反応しないノリオ。

シノブ 「あなたが悪いのよ、わかるでしょ。言いたいことはある?」

ノリオは何も言わない、ゆっくり上半身を起こし女に穏やかな笑顔を向ける。
その瞬間ピストルをノリオに打ち込むシノブ、ノリオもまた笑顔の死に顔。
二つの奇妙な死体の顔を見つめるシノブ。
シノブの目から涙はとまり、怖いほど冷静な表情になる。

シノブ 「・・・こんな時代には良くあるお話ね」

シノブは窓から外の景色を見る。

窓の外には満月。
大通りではその月明かりを頼りに異国の下層労働者達がまだ死体を片付けている

エンド

2008年4月28日月曜日

ボサノバなんか聞かない

ボサノバなんて聞かない

(ほぼ無言劇)

登場人物

白痴のような男 ヨシオ
身なりのボロボロの女 ミミ
ルイ
軍人
セレブ達



遠い未来のとある国の出来事

シーン1

核戦争化の国。
ヨシオはセレブしか入れない、シェルターで一人音楽を聴いている。
シェルターはそれなりに広く、ソファや、テーブルなどが複数あり、テーブルには豪勢な食事やシャンパンなどがある。
セレブリティー達は惨劇など他人事のように思い思いに気楽に過ごしている。
そこに、ボロボロの身なりのミミが入ってくる、身なりこそボロボロだが、その美しさは人目見ただけでわかる。      
そんなミミにセレブの男たちはいやらしい笑みをうかべ寄っていく。
しかしミミはそんな男のことなど意に介さず、テーブルにあったチキンを手づかみで食べる。
そしてひとしきりご飯を食べたあと、その辺の床に寝転がる。
あまりに野性的な行動にセレブの男たちは呆れ果て、ミミを軽蔑するような目で見る。

シーン2

シーン1から時間経過

ヨシオは相変わらずヘッドフォンで音楽を聴いている。
シェルターには先ほどまで居なかった軍服を着ている男がいて、隣には先ほどミミにちょっかいをかけようとしていたセレブの男が二人いる。
周りはさきほどとはうって変わり緊張感のある雰囲気。
しばらしくして、その二人をつれて軍人は外に出ようとする。
しかしセレブの一人はすごく抵抗をし、ついに軍人は部下に命じそのセレブを射殺する。
軍人は何事もなかったように、男一人だけをつれて外に出る。
まだ寝ているミミ。

シーン3

シーン2から時間経過。

先ほどのことなど何もなかったかのようにすごすセレブ達。
死体は片付けられている。
ヨシオとミミは相変わらず。
1組だけ様子のおかしいセレブ、ルイ。
どうやら自分のイチゴを誰かに食べられたようだ。
しきりに、あるお皿を指さしている。
しかし誰もそれを気になどしていない。
周りからは軽蔑のかすかな笑い声がクククと漏れる
さらに憤るルイ、怒りで体が振るえ、蕁麻疹のようなしっしんが出来る。
痒くてのたうちまわるルイ。
それを見てまた笑うセレブ達(今度はアメリカのシュチェーションコメディーのような感じ)
ルイはヨシオと目が合い、おもわず椅子に座っているヨシオを跳ねとばし、ヘッドフォンをとりあげて自分の頭にかぶせる。
セレブ大爆笑(ドリフのように)、しかしセレブ達の予想に反し徐々に落ち着きをとりもどすルイ。
いぶかしげなセレブ達。

シーン4

シーン3から時間経過

ルイは陶酔しきった表情で音楽を聴いている。
セレブ達ははじめてみるルイのそんな表情に驚き、ざわつく。
ヨシオは音楽を聞けず暇になり、部屋のすみでただニヤニヤしている。
そこにセレブがやってくる。

セレブ1 「ヨシオ、あれはどんな音楽なんだ。えっ、お前は一体どんな音楽を聴いていたんだ!」

一人が来たら、次々とやってきて同じような質問をし、もの欲しげにヘッドフォンを見つめる。
そこに先ほどの軍人がやってくる。さきほどとは違い右腕がない。
軍人がきたのでまた急に態度を変えしっかりするセレブリティー。

軍人 「国家総動員法が発令された、貴様らとてもはや例外ではない。2日後シェルターは閉鎖される。」
  
それだけ言うとそそくさと軍人は去る。
唖然とするセレブ達、恐怖で腰を抜かすものもいる。
   (間)
いきなり一人のセレブが音楽を聴いていたルイに飛び掛りヘッドフォンを奪う。
それに端をはっし、ヘッドフォンをめぐるセレブ達の喧嘩が始まる。
その喧嘩はリアルなものではなく、ケーキに頭を突っ込んだりとどこか滑稽。
   (しばし喧嘩)
それをみてヨシオは、ケラケラと笑いながら、スピーカーに取り付けられていたヘッドフォンを抜く。
すると、大音量でスピーカーからボサノバが流れる。
シェルター中に響き渡るボサノバ。
しばらくそれを聞き、うっとりとするセレブ達。
大音量のせいでさっきまで寝ていたミミが起き出す。
あたりを見ると、みんなが音楽に陶酔し我を忘れている。
   (少し間)
耳を塞ぐミミ。

セレブ2 「(恍惚とした表情で)なんだ、ボサノバを聞かないのかい?」
ミミ 「・・・ボサノバなんか聞かない」

ミミはヨシオと目が合う。
ミミは扉のほうを指差し、一緒にここを出ようかと手で合図を送る。
ヨシオはうなずく。
二人は手をとりシェルターを出る。

シェルターの中に残ったセレブ達は、ボサノバのかかったシェルターの中、いつまでも恍惚とした表情で小刻みに体を動かしている。
 
エンド 

2008年4月2日水曜日

王様きどり

王様きどり

王座にとある男が座っている。王様きどりである。
そこに執事がやってくる。

執事 おいおい。君、君。何をしておるのかね。
男 いや、特に何も。
執事 あのね、ここは王の座る場所なのだ。私以外の誰かに見つかったら王を侮辱した罪 で、死刑になるぞ。私は目をつぶっておこう。だから早くそこをどきなさい。
男 椅子に座ってるだけで死刑になるのですか。
執事 そうだ。
男 ひゃひゃひゃひゃ、そんなバカな。僕は別に人を殺したわけでも、何かを盗んだわけ でもない。椅子に座ってるだけで死刑だなんて信じられない。ひゃひゃひゃひゃ。
執事 なんて愚かな男なのだ。貴様に世界の理屈など説明してもしかたがない。とにかく そこをどけばいいのだ。
男 嫌だ。
執事 何をいうとるんだ!
男 もうすこしくらいいじゃんか。
執事 いいわけないだろう!
男 ちぇっ。

   男しぶしぶ王座から立ち上がり、去ろうとする

男 帰ると見せてまた座る。

   男、また王座に座る。

執事 何をしとるんじゃー!
男 椅子にすわってる。
執事 それはわかっとる!

   そこに王の一味が帰ってくる。

執事 王様!!!
王 これは何事じゃ。
執事 この、阿呆な男が王様きどりで、王の玉座に座っているのです。
王 殺してしまおう。すぐに。
男 王様、しばしお待ちを。よくよく考えてください。私はただ椅子にすわっているだけでございます。
執事 だから、それが・・・
男 この国は椅子にすわっているだけで死刑になるのですか?
王 そういう法律はない。
男 でしょう。
執事 だが、このいすは王座なのだ、王の椅子なのだ。
王 そうだ、やはり殺そう。
男 でも、椅子は椅子です。
王 確かにそうだ。私はどうすればいい。
男 お心に正直なってください。
王 正直にか。うーん。まぁ確かに椅子に座ってるだけで死ぬのはかわいそうだな。でもあれは特別な椅子であることも確かだ。・・・今日のところはもういいや、面倒だ。そこの阿呆、わしが身を清めてくるまで座っててよいぞ。おい、わしは風呂に入りたいのだ。

   王と家来はお風呂に出かける。また執事と男が二人になる。

男 ね、椅子に座ってるだけじゃ死なないんだよ。
執事 王の気まぐれがいい方向に作用したにすぎない。偶然だ。
男 偶然ねー。なんでもいいけど。とはいえ緊張してのどが渇いた。『爺、お水を持って来い』
執事 王様きどりめ。

   そういいながら水をグラスに注ぐ。そのとき家来があわてて戻ってくる。

家来 お前、本当に王の執事か?執事にお前のような顔の男はみたことがないが。
執事 ・・・私ですか、・・・いえ、・・・・執事きどりです

エンド

2008年3月28日金曜日

恋に落ちたら月に行こう

恋に落ちたら月へ行こう。※♡の部分は本当は書いてたんだけど伏せました。

路上でこんな歌を歌っている娘がいた。

「素敵なあなたに会いたくて、

遠路はるばるやって来た。

あなたを一目みるだけで、とても楽しい宵の口。

私の瞳が♡に変わる。

ほんとにほんとに♡に変わる。

嘘じゃないのよ。

嘘だと思うならよく見なさいよ。

どう、本当に♡でしょう。

あれ、あなたどこ行くの

♡になった瞳から変な汁が出ちゃうじゃない。

涙、なんかじゃないわよ、変な汁なの。

私は、涙は枯れたから変な汁しかもうでないの。

それは地球のものじゃなくて、月由来の成分なの。そんなんが体内から出るの。

みんなはそんなのルール違反だと言うけど、そんなの別にルール違反でもなんでもない!だいたいみんなって誰なんだよ!」

ガシャン(何かが割れる音)

こんな奇妙な歌詞の歌を聞いたことがなかった。さらに驚愕すべきなのは、この歌でのギターの使い方である。といっても僕は音楽に関して専門的な知識を持っていないので曖昧な表現になるが。

「素敵なあなたに会いたくて、

遠路はるばるやって来た。

あなたを一目みるだけで、とても楽しい宵の口。」

この部分までは、いわゆる吉田拓郎のようなフォーク調である。ギターもジャーンジャーンと普通にかき鳴らされている。しかし、

「私の瞳が♡に変わる。

ほんとにほんとに♡に変わる。

嘘じゃないのよ。

嘘だと思うならよく見なさいよ。」

この部分にさしかかると、急にラモーンズのようなパンク調になり、ギターがガガガガと鳴らされる。そして、

「どう、本当に♡でしょう。

あれ、あなたどこ行くの

♡になった瞳から変な汁が出ちゃうじゃない。

涙、なんかじゃないわよ、変な汁なの。」

この部分では、ギターはコードをかき鳴らすというよりは打楽器として機能するようになり、ひじでボディーの部分をぶっ叩き、どかどかと音が奏でられた。
ただ時折思い出したように奇妙なコードをジャランとならし、それが異様にサイケデリックな雰囲気をかもしだしていた。最後に

「私は、涙は枯れたから変な汁しかもうでないの。

それは地球のものじゃなくて、月由来の成分なの。そんなんが体内から出るの。

みんなはそんなのルール違反だと言うけど、そんなん別にルール違反でもなんでもない!だいたいみんなって誰なんだよ!」

 ここではギターすら弾いていない。目をつぶりただ仁王立ちでつぶやくように歌っていた。歌い終わると彼女は道ばたに落ちてあったコンクリートブロックを持ち、すぐ歌っていたところの後ろにある民家に投げ込んだ。ガラス窓が割れた。

 僕は興奮した。これこそが表現だと思った。民家からおじいちゃんが出て来た。阿修羅のような形相だ。どうするんだあの娘は。期待がふくらんだ。あの娘がどんなことをしても僕はあの娘の味方をしようと思った。これは表現なのだ。おじいちゃんには悪いがには真の表現には犠牲はつきものだ。どうするんだ。何故黙ってるんだ。まさかギターで殴るのか。そうだ、ギターで殴るに決まってる。なあにアコギなんだから大丈夫だ、死にはしない。遠慮なく殴れ。おお目が輝いた。いよいよか。殴るのだな、殴れ。後のことは僕にまかせろ。

ペコリ 

えっ。

・・・ごめんなさい・・・
・・・も、もうバイトの時間なんで行ってもいいですか・・・。
・・・ありがとう、こんなこと二度としませんから・・・

ペコリ。まさかのペコリ。あの娘はペコリとして、あやまった。しかも今からバイトに行くとは。とても普通だ。今までの勢いはどこへ。いや、しかしまてよ、あのペコリは僕が今までみたどんなペコリよりも良かった気がした。いや、気がしたのではない、良かった。ペコリ、あのペコリは事実すごく良かったんだ、これは奇跡に等しいことじゃないか!あの娘はとても素敵な人なのだ。鼓動が早くなる。つまりは恋におちてしまったのだろう。僕は決めた。あの娘に声をかけよう。バイトなんかやめて二人でこの街を出よう、そうだ、月にでも行こうよってね。

エンド

2008年3月26日水曜日

コーヒーゼリー

コーヒーゼリー

私はまーちゃんという貧乏な男と同棲をしている。

その日、私はまーちゃんとコンビニに入った。空調が効きすぎていて寒かった。私はなにを買うでもなくぶらぶらし、結局ぼんやりと週刊誌を立ち読みしていた。まーちゃんはというとデザートコーナーの前で微動だにしない。
そのとき、まーちゃんが私を呼んだ。呼ばれるままに私はまーちゃんの方へ行く。
「あのさ、おれこのコーヒーゼリーを買おうと思うんだ」
「あ、うん、買えばいいと思うけど」
「この、コーヒーゼリーさ105円だろ。でもこっちは135円だ」
「うん」
「で、ゼリーの量も上についてるクリームの量もだいたい同じくらいだ」
「うん」
「でも、こっちを買おうと思うんだ、この二つのコーヒーゼリーには30円以上の違いがあると思うんだよ、俺には」
 よくもまあこんなにつまらないことを、顔を輝かせていう男もいるものだ。私はまーちゃんは貧乏だから素直に安いものを買えばいいとおもうのだけど。でも私はこんなつまらない男のことが大好きなのだ、きっと。

 3ヵ月後、私は交通量調査のバイトを行なうことになった。そこでパートナーになったアキオという男がなかなか良い男だった。少し好きになった。でも、まーちゃんには言わないでおくことにした。まーちゃんを傷つけるのがなんとなく面倒だったのだ。それに気づかないだろうとも思っていた。
 ところが意外なことにまーちゃんはすぐに私の浮気に気がついた。そして私に出て行けよと、冷静な顔で言い放った。
「あ、ごめん。最後にさ、冷蔵庫の中からコーヒーゼリーとってよ」
出て行こうとする私に言う。顔からはその心中はうかがい知れない。
「いいよ」
私もなるべく冷静に言う。
「また、いつものコーヒーゼリーだね」
「・・・違うよ。これは105円のやつ」

部屋を出る。少し泣いてしまった。私にはきっと永遠にこの二つのコーヒーゼリーの違いなどわからない。そのことが、そのことだけが、無性に悲しかったのだ。

エンド

2008年3月14日金曜日

死体

人里離れた田舎町。

とあるバスターミナルに男1がいる。男の足下には女の死体。
そこに男2がやってくる。

男2 おーい、待った。
男1 いや、待ってない。
男2 て、この女の人、なんでこんなところで寝ているの。風邪引くよ。
男1 いや、寝てるんじゃない。死んでるんだ。確かめたんだけど呼吸はなか
 ったよ。
男2 誰にも言わないよ、安心しろ。
男1 いや、俺が殺したわけじゃないから。
男2 誰にも言わない。八百屋のゴンさんにも、パン屋のナミちゃんにも、お
 前の母ちゃんにも誰にもいわないからな。
男1 いや、だから俺が殺したんじゃないんだって。俺もさっき来たばっかり
 で、そのときのはもうここで女が死んでたんだよ。
男2 食堂のよしこさんにも決して言わないって。
男1 おい、お前ねぇ。
男2 冗談だよ。
男2 ところで綺麗な人だね。
男1 まぁそうだな。
男2 警察呼んだ?
男1 まだ。
男2 (もじもじしながら)言いにくいんだけどさ。
男1 なんだよ、言えよ。
男2 どうしようかな。
男1 言えよ。
男2 あのさ、おっぱい触りたい。
男1 えっ、死体の。
男2 うん。
男1 なんで、お前。
男2 お、俺おっぱい触ったことなくてさ、なんか良い機会だなーと思って。
男1 なに、お前おっぱいまだなの。23にもなって。ははは。
男2 駄目かな。
男1 いや、俺に許可を求めるなよ。
男2 じゃあいいんだね、いいんだね。
男1 い、いいんじゃねぇ。減るもんじゃないし。あ、そういう問題でもな
 けど。
男2 ありがとう、さすが心の友。

   男2、ドキドキしながら死体のおっぱいを触る。

男1 どうだ。
男2 やわらかい。とても、なんというか良い感じ。
男1 し、死後硬直まだはじまってないんだな。それともおっぱいはべつもの
 かな。
男2 うわ、すげぇいい。おっぱいすげぇいい。
男1 おいおい、大げさだな。
男2 触る?
男1 なんで俺が、俺は別に普段触ってるから。
男2 そうか、出来れば生きてる人間のおっぱいのほうが良いもんな。
男1 そりゃあな。
男2 まぁいいや、もうちょっと触ろ。

   男2引き続き死体のおっぱいを触る。

男1 お前触り過ぎなんだよ!
男2 なんだよ、いきなり大きな声で。
男1 (小声で)なんか羨ましい。
男2 やっぱり触りたいの?
男1 触らない。なぜなら俺は普段触りまくって・・・
男2 じゃあ、俺が引き続き、
男1 待って!
男2 何?
男1 (小声で)お、おれ触りたい。
男2 何?
男1 俺触りたい!
男2 どれくらい
男1 どれくらいって、まぁ軽く。
男2 じゃあ駄目。
男1 嘘、嘘、すごく触りたい。実は、俺もおっぱい触ったことないんだ!

   男1、男2の様子を伺う。男2は無言。

男2 失望したよ。
男1 ごめん、今まで俺見栄はってたんだ。
男2 見栄なんかはるなよ、俺たち親友なんだから。
男1 ごめん、本当に。
男2 こういうのは金輪際なしだから。

   男2は男1におっぱいをゆずる。

男2 どう、おっぱい?いいでしょ。
男1 やわらかい。すごくいい。

   その時、突然女の目が開く。

男1 うわ!
男2 なになにどうしたの。

   男1、女と目が合う。

男1 死体が、い、生返った。
男2 え!

   男2腰をぬかす。女は起き上がる。

男2 ゾンビだ、女ゾンビ!!
女 いや、たぶん違います。
男2 しゃべった、ゾンビがしゃべった!
男1 か、確認なんすけど。あ、あのー、死んでましたよね?
女 はい、確かに。
男2 じゃあ生返ったんだ、やっぱり女ゾンビじゃないか!
女 というかですね。あなた達、おっぱいもむのが下手で、揉みが心肺蘇生の  
 役割を担ったんだと思います。

   男二人みるみる顔が真っ赤になる。

男1 そうだったのか、喜んでいいのか、悲しんでいいのか。
男2 もしかして途中で気づいていたとか。
女 あ、そうですね、はい。
男1 なんで今まで黙っていたのですか。
男2 そうだ、おかしいじゃないか。

   女は顔が真っ赤になる。

女 実は・・・私も、初めてなの。
男1、2 何が?
女 おっぱい揉まれるの。

エンド

2008年2月26日火曜日

『中学生』

シーン1 (雨ちゃんの部屋) 

いたずら電話が好きな中学生二人。今日もイタ電話を試みる。

裕也 「雨ちゃん、また名人芸頼むわ」
雨ちゃん 「わかった」

   雨ちゃん、適当に番号を押し電話をかける。

雨ちゃん 「お、かかったかかった」
電話の主 「・・・もしもし」
雨ちゃん 「わしや」
電話の主 「・・・はぁ、ちょっと待って」
雨ちゃん 「わしや」
電話の主 「いや、わし言うてもいろいろあるし、紙の和紙とか、動物の鷲とか、大阪弁
 のわしとか。なんのわしですか」

   雨ちゃんは電話を離して、裕也に言う。

雨ちゃん 「こいつアホや、{わし}の意味わかってないわ、鳥の鷲とか意うてる」
裕也 「(笑いをこらえながら)なんでやねん、いきなり電話で鷲とか普通いうか、雰囲気でわかるやん」

   雨ちゃん、電話に戻り

雨ちゃん 「わしや言うてるやろ」
電話の主 「・・・あ、もしかしてわっしー先輩?」
雨ちゃん 「えっ、そ、そうや、わっしーや」
裕也 「(笑いをこらえながら)誰やねん、わっしーて、どんな展開や」
電話の主 「もう、さっさと名乗ってくださいよ、なんで非通知なんすか。いたずらと思いましたよ」
雨ちゃん 「違うよ」
電話の主 「もう、僕いたずら嫌いなん知ってるでしょう、あ、そうや、ところでどうなりました、あいつ?」
雨ちゃん 「あ、あいつ?えーっと、うん、うん」
電話の主 「なんなんすか、もうやったんでしょ」
雨ちゃん 「ああ、うんやった、やった、あいつスタイル良くてさ」
電話の主 「もうーなに言ってはるんですか、あいつって武田幸輔ですよ。殺したんでしょ?」
雨ちゃん 「た、武田ね。うん、武田は殺した、うん。ああうん、やったったよ。もう死 んでしまうくらいに、ボコボコしたったわ、そっちね、うん」
電話の主 「えっ、ピストルじゃないんすか?」
雨ちゃん 「えっ、えっ、えっ、ピストル?」
電話の主 「言うてたじゃないですか、チャカで殺すって」
裕也 「雨ちゃん、ちょっとなにピストルって」

雨ちゃん顔が真っ青になってる。

電話の主 「わっしー先輩どうしたんすか?」
雨ちゃん 「いや、ちょっと寒気が」
電話の主 「風邪ですか?気をつけてください。あとなんかね、本山からまた殺しの依頼 があったんすよ。しかも同時に3人も殺ってくれって。いや、僕言うたんすよ、いくらわっしー先輩でも 3人同時は無理やって。そしたらくってかかってきたもんやから、腹たってもうてね、僕も短気ですわ、 ぶすって」
雨ちゃん 「・・・ぶすって、ぶさいく方面の?」
裕也 「おいおい、雨ちゃん、何いうてんねん、顔色悪すぎやで」
電話の主 「もう今日のわっしー先輩変ですよ。もちろん、ドスを腹につき刺す・・・」
雨ちゃん 「うわー!完全に殺し屋!!」

   雨ちゃん、携帯をほうり投げる。



シーン2(電話の主の部屋)

中学生の二人組みがいる。

主の友人 「どうなった?」
電話の主 「わからん、怖くてもう聞けなくなったんちゃう、完全に殺し屋って言ってた」
二人 「はははははは」

2008年2月24日日曜日

『ぼんやり野郎』

ある日

ぼんやり野郎が歩いている。多くの人も歩いている。

彼は立ち止まりぼんやり野郎に声をかける。

「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」

ぼんやり野郎は声をかけられているのに気づいていない。

ぼんやりしているから。

「おい、聞いているのか、ぼんやり野郎。行くとこがなければ僕の家に遊びに来いよ」

ぼんやり野郎はようやく気づく。そしてぼんやりと首を横に振る。

ぼんやり野郎は手が差し伸べられていることに気づいていない。

ぼんやりしているから。

ぼんやり野郎に声をかける人など彼ぐらいだというのに。

ぼんやり野郎はぼんやりと去っていった。彼はもう何も言わなかった。

また別の日

ぼんやり野郎は歩いている。多くの人も歩いている。

彼は立ち止まり声をかける。

「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」

ある日のぼんやり野郎はこの日の彼になっていた。ある日の彼はこの日のぼんやり野郎になっていた。

ぼんやりとした空の下、そのことには誰も気づいていない。

誰も気づいていない。

それどころか流れる人々は立ち止まる気配すら未だ見せずにいる。

2008年2月19日火曜日

『毒饅頭と雪饅頭』

『毒饅頭と雪饅頭』
                               

僕は噂の毒饅頭を食べてしまったみたいだ。

眩暈、吐き気、動悸、が襲ってくる。しばらくすると気絶してしまった。

夢を見た。

中国の工場の中、白い作業服を着た連中が、こっちをじっと見ている。

「ごめんよ、お前が食べるとは思わなかったんだ、お前は俺たちの味方だもんな」

味方かな、少し考えたが何も言わなかった。

「ごめんよ、お前にまで苦しい思いをさせて、俺たちはやっぱり地獄におちてしまうよな、わかっているんだ、わかってるんだよ」

たぶん僕は死なないからそこまで言はなくても、と言いかけたが、なんとなく言い留まった。

目が覚めた、目覚めると病院のベッドの上にいた。

僕は中国人、あいつらの悲しみを知らないわけでもない、しかし夢の中で結局あいつらに何も言えなかった。後悔が残る。

窓の外には、雪。



ガチヤ、ドアが開き、恋人が入ってきた。

「気がついた」
「うん」
「雪積もってるよ」
「それ何、雪ダルマ?にしては頭の部分がないよね」
「雪ダルマじゃないよ、雪饅頭。食べてみる、毒入りかも?」

恋人は笑う、僕も笑う。不謹慎な冗談。なぜか少し体が楽になった。

僕は雪饅頭を食べる。これを食べて死んだって僕はかまわない。

雪饅頭はなぜかとても甘い味がした。毒入り?まさか。




雪饅頭を食べた3分後僕は死んでしまった。

死因は雪饅頭、ではなく、毒饅頭。使っていた薬品が人体に重大な影響を及ぼす劇薬だったそうだ。

恋人は最後に不謹慎な冗談を言ってしまったことを悔やんでいた。悔やむことはない、それで救われたのだから。最後に会えてよかった。

僕は天国であいつらを待っている。大きな声で言いたいことが出来たのだ。