2008年4月2日水曜日

王様きどり

王様きどり

王座にとある男が座っている。王様きどりである。
そこに執事がやってくる。

執事 おいおい。君、君。何をしておるのかね。
男 いや、特に何も。
執事 あのね、ここは王の座る場所なのだ。私以外の誰かに見つかったら王を侮辱した罪 で、死刑になるぞ。私は目をつぶっておこう。だから早くそこをどきなさい。
男 椅子に座ってるだけで死刑になるのですか。
執事 そうだ。
男 ひゃひゃひゃひゃ、そんなバカな。僕は別に人を殺したわけでも、何かを盗んだわけ でもない。椅子に座ってるだけで死刑だなんて信じられない。ひゃひゃひゃひゃ。
執事 なんて愚かな男なのだ。貴様に世界の理屈など説明してもしかたがない。とにかく そこをどけばいいのだ。
男 嫌だ。
執事 何をいうとるんだ!
男 もうすこしくらいいじゃんか。
執事 いいわけないだろう!
男 ちぇっ。

   男しぶしぶ王座から立ち上がり、去ろうとする

男 帰ると見せてまた座る。

   男、また王座に座る。

執事 何をしとるんじゃー!
男 椅子にすわってる。
執事 それはわかっとる!

   そこに王の一味が帰ってくる。

執事 王様!!!
王 これは何事じゃ。
執事 この、阿呆な男が王様きどりで、王の玉座に座っているのです。
王 殺してしまおう。すぐに。
男 王様、しばしお待ちを。よくよく考えてください。私はただ椅子にすわっているだけでございます。
執事 だから、それが・・・
男 この国は椅子にすわっているだけで死刑になるのですか?
王 そういう法律はない。
男 でしょう。
執事 だが、このいすは王座なのだ、王の椅子なのだ。
王 そうだ、やはり殺そう。
男 でも、椅子は椅子です。
王 確かにそうだ。私はどうすればいい。
男 お心に正直なってください。
王 正直にか。うーん。まぁ確かに椅子に座ってるだけで死ぬのはかわいそうだな。でもあれは特別な椅子であることも確かだ。・・・今日のところはもういいや、面倒だ。そこの阿呆、わしが身を清めてくるまで座っててよいぞ。おい、わしは風呂に入りたいのだ。

   王と家来はお風呂に出かける。また執事と男が二人になる。

男 ね、椅子に座ってるだけじゃ死なないんだよ。
執事 王の気まぐれがいい方向に作用したにすぎない。偶然だ。
男 偶然ねー。なんでもいいけど。とはいえ緊張してのどが渇いた。『爺、お水を持って来い』
執事 王様きどりめ。

   そういいながら水をグラスに注ぐ。そのとき家来があわてて戻ってくる。

家来 お前、本当に王の執事か?執事にお前のような顔の男はみたことがないが。
執事 ・・・私ですか、・・・いえ、・・・・執事きどりです

エンド

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