2008年2月24日日曜日

『ぼんやり野郎』

ある日

ぼんやり野郎が歩いている。多くの人も歩いている。

彼は立ち止まりぼんやり野郎に声をかける。

「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」

ぼんやり野郎は声をかけられているのに気づいていない。

ぼんやりしているから。

「おい、聞いているのか、ぼんやり野郎。行くとこがなければ僕の家に遊びに来いよ」

ぼんやり野郎はようやく気づく。そしてぼんやりと首を横に振る。

ぼんやり野郎は手が差し伸べられていることに気づいていない。

ぼんやりしているから。

ぼんやり野郎に声をかける人など彼ぐらいだというのに。

ぼんやり野郎はぼんやりと去っていった。彼はもう何も言わなかった。

また別の日

ぼんやり野郎は歩いている。多くの人も歩いている。

彼は立ち止まり声をかける。

「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」

ある日のぼんやり野郎はこの日の彼になっていた。ある日の彼はこの日のぼんやり野郎になっていた。

ぼんやりとした空の下、そのことには誰も気づいていない。

誰も気づいていない。

それどころか流れる人々は立ち止まる気配すら未だ見せずにいる。

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