ある日
ぼんやり野郎が歩いている。多くの人も歩いている。
彼は立ち止まりぼんやり野郎に声をかける。
「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」
ぼんやり野郎は声をかけられているのに気づいていない。
ぼんやりしているから。
「おい、聞いているのか、ぼんやり野郎。行くとこがなければ僕の家に遊びに来いよ」
ぼんやり野郎はようやく気づく。そしてぼんやりと首を横に振る。
ぼんやり野郎は手が差し伸べられていることに気づいていない。
ぼんやりしているから。
ぼんやり野郎に声をかける人など彼ぐらいだというのに。
ぼんやり野郎はぼんやりと去っていった。彼はもう何も言わなかった。
また別の日
ぼんやり野郎は歩いている。多くの人も歩いている。
彼は立ち止まり声をかける。
「ぼんやり野郎、行くとこはあるのか?」
ある日のぼんやり野郎はこの日の彼になっていた。ある日の彼はこの日のぼんやり野郎になっていた。
ぼんやりとした空の下、そのことには誰も気づいていない。
誰も気づいていない。
それどころか流れる人々は立ち止まる気配すら未だ見せずにいる。
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