2008年3月26日水曜日

コーヒーゼリー

コーヒーゼリー

私はまーちゃんという貧乏な男と同棲をしている。

その日、私はまーちゃんとコンビニに入った。空調が効きすぎていて寒かった。私はなにを買うでもなくぶらぶらし、結局ぼんやりと週刊誌を立ち読みしていた。まーちゃんはというとデザートコーナーの前で微動だにしない。
そのとき、まーちゃんが私を呼んだ。呼ばれるままに私はまーちゃんの方へ行く。
「あのさ、おれこのコーヒーゼリーを買おうと思うんだ」
「あ、うん、買えばいいと思うけど」
「この、コーヒーゼリーさ105円だろ。でもこっちは135円だ」
「うん」
「で、ゼリーの量も上についてるクリームの量もだいたい同じくらいだ」
「うん」
「でも、こっちを買おうと思うんだ、この二つのコーヒーゼリーには30円以上の違いがあると思うんだよ、俺には」
 よくもまあこんなにつまらないことを、顔を輝かせていう男もいるものだ。私はまーちゃんは貧乏だから素直に安いものを買えばいいとおもうのだけど。でも私はこんなつまらない男のことが大好きなのだ、きっと。

 3ヵ月後、私は交通量調査のバイトを行なうことになった。そこでパートナーになったアキオという男がなかなか良い男だった。少し好きになった。でも、まーちゃんには言わないでおくことにした。まーちゃんを傷つけるのがなんとなく面倒だったのだ。それに気づかないだろうとも思っていた。
 ところが意外なことにまーちゃんはすぐに私の浮気に気がついた。そして私に出て行けよと、冷静な顔で言い放った。
「あ、ごめん。最後にさ、冷蔵庫の中からコーヒーゼリーとってよ」
出て行こうとする私に言う。顔からはその心中はうかがい知れない。
「いいよ」
私もなるべく冷静に言う。
「また、いつものコーヒーゼリーだね」
「・・・違うよ。これは105円のやつ」

部屋を出る。少し泣いてしまった。私にはきっと永遠にこの二つのコーヒーゼリーの違いなどわからない。そのことが、そのことだけが、無性に悲しかったのだ。

エンド

0 件のコメント: