恋に落ちたら月へ行こう。※♡の部分は本当は書いてたんだけど伏せました。
路上でこんな歌を歌っている娘がいた。
「素敵なあなたに会いたくて、
遠路はるばるやって来た。
あなたを一目みるだけで、とても楽しい宵の口。
私の瞳が♡に変わる。
ほんとにほんとに♡に変わる。
嘘じゃないのよ。
嘘だと思うならよく見なさいよ。
どう、本当に♡でしょう。
あれ、あなたどこ行くの
♡になった瞳から変な汁が出ちゃうじゃない。
涙、なんかじゃないわよ、変な汁なの。
私は、涙は枯れたから変な汁しかもうでないの。
それは地球のものじゃなくて、月由来の成分なの。そんなんが体内から出るの。
みんなはそんなのルール違反だと言うけど、そんなの別にルール違反でもなんでもない!だいたいみんなって誰なんだよ!」
ガシャン(何かが割れる音)
こんな奇妙な歌詞の歌を聞いたことがなかった。さらに驚愕すべきなのは、この歌でのギターの使い方である。といっても僕は音楽に関して専門的な知識を持っていないので曖昧な表現になるが。
「素敵なあなたに会いたくて、
遠路はるばるやって来た。
あなたを一目みるだけで、とても楽しい宵の口。」
この部分までは、いわゆる吉田拓郎のようなフォーク調である。ギターもジャーンジャーンと普通にかき鳴らされている。しかし、
「私の瞳が♡に変わる。
ほんとにほんとに♡に変わる。
嘘じゃないのよ。
嘘だと思うならよく見なさいよ。」
この部分にさしかかると、急にラモーンズのようなパンク調になり、ギターがガガガガと鳴らされる。そして、
「どう、本当に♡でしょう。
あれ、あなたどこ行くの
♡になった瞳から変な汁が出ちゃうじゃない。
涙、なんかじゃないわよ、変な汁なの。」
この部分では、ギターはコードをかき鳴らすというよりは打楽器として機能するようになり、ひじでボディーの部分をぶっ叩き、どかどかと音が奏でられた。
ただ時折思い出したように奇妙なコードをジャランとならし、それが異様にサイケデリックな雰囲気をかもしだしていた。最後に
「私は、涙は枯れたから変な汁しかもうでないの。
それは地球のものじゃなくて、月由来の成分なの。そんなんが体内から出るの。
みんなはそんなのルール違反だと言うけど、そんなん別にルール違反でもなんでもない!だいたいみんなって誰なんだよ!」
ここではギターすら弾いていない。目をつぶりただ仁王立ちでつぶやくように歌っていた。歌い終わると彼女は道ばたに落ちてあったコンクリートブロックを持ち、すぐ歌っていたところの後ろにある民家に投げ込んだ。ガラス窓が割れた。
僕は興奮した。これこそが表現だと思った。民家からおじいちゃんが出て来た。阿修羅のような形相だ。どうするんだあの娘は。期待がふくらんだ。あの娘がどんなことをしても僕はあの娘の味方をしようと思った。これは表現なのだ。おじいちゃんには悪いがには真の表現には犠牲はつきものだ。どうするんだ。何故黙ってるんだ。まさかギターで殴るのか。そうだ、ギターで殴るに決まってる。なあにアコギなんだから大丈夫だ、死にはしない。遠慮なく殴れ。おお目が輝いた。いよいよか。殴るのだな、殴れ。後のことは僕にまかせろ。
ペコリ
えっ。
・・・ごめんなさい・・・
・・・も、もうバイトの時間なんで行ってもいいですか・・・。
・・・ありがとう、こんなこと二度としませんから・・・
ペコリ。まさかのペコリ。あの娘はペコリとして、あやまった。しかも今からバイトに行くとは。とても普通だ。今までの勢いはどこへ。いや、しかしまてよ、あのペコリは僕が今までみたどんなペコリよりも良かった気がした。いや、気がしたのではない、良かった。ペコリ、あのペコリは事実すごく良かったんだ、これは奇跡に等しいことじゃないか!あの娘はとても素敵な人なのだ。鼓動が早くなる。つまりは恋におちてしまったのだろう。僕は決めた。あの娘に声をかけよう。バイトなんかやめて二人でこの街を出よう、そうだ、月にでも行こうよってね。
エンド
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