2010年5月20日木曜日

植林

読書会用メモ

さっと読んだ感想

植林

(ラストを読む前)

 何もここまで、と目を覆ってしまいたくなるくらい救いがない。女がモンスターへと変わってしまうまでの筆致が、容赦なく、断言的で、「容姿に自身が無い=コンプレックスを肥大化させる」という主人公が陥る図式を読者に植え込ませる力が凄い。
 ただ少し俯瞰して見ると、容姿に自身がない人を甘い言葉で肯定させる社会(ちょっと安易に書くけど、ひとりじゃないよとか、いつも一緒にいるよとかっていう言葉が反乱している社会)において、容姿に自身がない人が、堂々と恨み妬みそねみを言うのは、タブーとされているような雰囲気がある。せいぜい、お笑い番組の女芸人たちが発する、かわいい毒が関の山。(本の感想に引き寄せた言い回しで書くけど)それは機能としては大衆への迎合。そういった社会において、この主人公のように容姿故にリアルに世界を恨み、醜い心をもっている女を堂々と描くのは、社会に存在する目に見えない空気へのアンチテーゼのように思える。つまり主人公は社会の暗黙の道徳をぶちこわすための壊し屋というか。

(ラストを読んでから)

 と、まぁここまでは、僕がよく陥りがちな思考。でも最後の最後にこういう引いた目でみるような思考を一蹴するような描写が待ち構えている。結果、もうこの主人公はただただ怖すぎる、というアホのような感想しかもてなくなった。主人公の前では社会との接点的な安易な考え自体がもはや弱すぎる。そんなもんで主人公の中にいるモンスターはひっとつも微動だにせん。この文庫本を角川ホラー文庫にしたい。

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